鉄塔を建てる場合、その仕事は何か月も前から始まっている。
当社は高圧送電鉄塔の建設や送電線の張り替え、メンテナンス作業などを行っていますが、私の仕事は工事の管理全般です。現場によっては、電工として鉄塔に登って作業を行うこともありますが、主に現場監督と工事用地の交渉業務を担当しています。
例えば、鉄塔を建てる場合、その仕事は何か月も前から始まっています。依頼元である九州電力様から工事の委託を受け、工事仕様書をいただくわけですが、それに基づいて電工の人員確保や、各種調査を行いながら工事計画書を作成します。鉄塔を山の中腹などに建てる場合もありますから、その際は資機材の運搬ルートを確保するために、運搬路を作るのか? モノレールを使うのか? といったことも検討し決めていく。そして、工事を行うためには、その土地の地主さんへ工事に関する説明やご承諾をいただくため、その用地交渉業務も行います。当社も社員数が増えてきたので、基本的には現場監督と交渉業務は別々の者が担当するのですが、私は珍しいタイプで交渉もやって現場監督もやっていますね。
現場状況を把握し、決断を行うことの大切さを学んだ。
色々な現場でたくさんの仕事を経験させてもらいましたが、その中でも忘れられないのは、初めて整備現場の責任者を務めたときのことです。50万ボルトの高圧送電鉄塔があって、その敷地の修繕工事の現場でした。雨水を流す側溝の代わりに土嚢を使っての修繕工事だったのですが、現場が資材を運びながら沢伝いに上っていかなければいけない所だったんです。
その現場での4日目のことです。天気予報で雨だったものの、それほど降りそうもなかったので、前日までと同じように上って行きました。ただ、鉄塔までもう少しという所まで来たときにどしゃ降りになって、くるぶしぐらいまでだった沢の水も腰ぐらいにまで増水してしまって。そこで、荷物は置いて引き上げようとしたのですが、戻ろうにもなかなか戻れない。沢を迂回しながら行って、場所によってはロープを張ってそのロープ伝いに沢を渡ってどうにか引き上げてきました。その時は、他の作業員に「パンツまでビショビショに濡らした現場は初めてだよ」と言って笑われましたね。
このようなことは稀ですが、私たちの仕事は外での仕事なのでどうしても天候に左右されてしまいます。天候に限った話ではありませんが、現場責任者は現場の置かれた状況をきちんと把握し、しっかり決断をした上で仕事を進めていかないといけないということを、この現場で学びました。
そこに住む人たちの生活を支えるためにという誇り。
この仕事は大変なこともあります。でも、慣れれば、この仕事ほどやりがいのある仕事もなかなかない。私はこの会社へ入る前に、営業や飲食店での経験もありますが、本当にそう思います。現代社会で生活する上で、電気は必要不可欠なものです。私たちの仕事はその電気を流す根幹に携わる仕事であり、言ってみれば、ライフラインを守る仕事です。
鉄塔を建て替えるときに見るんですよ。この鉄塔はいつ建てられたものかなって。鉄塔には鉄塔番号と何年に建てられてかが必ず書いてあるんです。それを見ると、1930年代や1940年代に建てられたものもある。そんなのを見ると、自分の建てた鉄塔が自分の死んだ後も、そこに住む人たちの生活を支えるために建ってるんだなって思うんです。だからってわけじゃないですけど、友達にも言ったりしますね(笑)、「この鉄塔は自分がやった現場だ」って。